【第8回定期演奏会】

メンデルスゾーン 弦楽のためのシンフォニア第10番 ロ短調

 メンデルスゾーンは、1809年ドイツ北部の港町ハンブルクに裕福な銀行家の長男として生まれました。可愛く(子供時代の肖像画はまるで女の子のようです)、賢く、音楽的な才能に恵まれた幸せな子供時代を過ごし、7歳で父の意向でキリスト教に改宗し、指揮者、ピアニスト、作曲家として成功し、美しい妻と子供達、多くの友人に囲まれ、38年間と短いながらも幸せな人生を送りました。確かに、ユダヤ人差別もあったでしょうし、数々の成功の裏にはそのための苦しみがあったのでしょう。しかし、全般的には音楽史上稀なくらい幸福な一生を送っています(お金があって、女性にもてて、名声があってと実に羨ましい…)。

メンデルスゾーンの功績は数々ありますが、まず第一にバッハの「マタイ受難曲」の復活公演が挙げられます。当時、一般には殆ど忘れられていたバッハを取り上げ、世間に認めさせ、今日の根強いバッハ人気の礎を築いたことは特筆に価するでしょう。私達が本日バッハの「シャコンヌ」を演奏できるのもメンデルスゾーンのお陰です。本日演奏する「シンフォニア」はそんなメンデルスゾーンがまだ14歳(!)の時に書いた弦楽のための交響曲集の中の1曲で、毎週日曜日に自宅(!!)で開かれていた「日曜演奏会」でプロの演奏家達により演奏されていたそうです。そこで指揮をしていたのは少年メンデルスゾーン。なんという早熟(!!!)。

メンデルスゾーンは大作曲家と呼ばれる個性的な人々の中にあって、ちょっと影が薄いとよく言われます。それは彼の育ちの良さがにじみでているような上品な作風、あまりにもメランコリックなメロディが影響しているのかもしれませんが、私はまさにそこがメンデルスゾーンの個性なのではないかと思います。そんな、ちょっと胸がキュンとするような彼のメロディとハーモニーを、本日の私達の演奏から感じ取っていただければ幸いです。 (Y・I)

ハイドン チェロ協奏曲第1番 ハ長調        チェロ独奏 西本慶子

私がチェロの演奏家の為にエンドピンを製作している事で、多くのチェリストと知り合いになる機会があります。

平成18年の第3回演奏会はハイドンのニ長調を山口真由美さん、平成21年の第5回演奏会はボッケリーニの変ロ長調を池村佳子さんにご出演頂きました。本日演奏しますハイドンのコンチェルトは、調性がハ長調だけに非常に軽やかで健康的で乗りの良い曲です。

 全3楽章構成(第1楽章:Moderato 第2楽章:Adagio 第3楽章:Allegro Molto)

京都芸術大学に在籍されている新進気鋭の女性チェリスト西本慶子さんにぴったりのイメージかもしれません。この曲を演奏していますと布施明さんの『君は薔薇より美しい』を私は連想します。♪息をきらし 胸をおさえて 久しぶりねと君が笑う馬鹿だね そんなに急ぐなんてうっすら汗までかいて・・・・

澄みきった青空といきいきとした緑の芝生、片手にコーラ、足にじゃれつく愛らしいプードルどこまでも無邪気な少女は笑い転げています。 (J・M)    

バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調BMW1004より シャコンヌ

ドイツバロック音楽最大の巨匠として知られるJ.S.バッハ(1685-1750)は、1717年から1723年までの間、アンハルト・ケーテン公 レオポルド伯爵家の宮廷楽長を務めていました。この時期のバッハはそれまでのように教会音楽やオルガン曲などを作曲する義務から解放され、その代わりに器楽曲の作曲を多く求められていました。「ケーテン時代」と呼ばれる時代でブランデンブルグ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲をはじめとする各種の協奏曲(平均律クラヴィア曲集・フランス組曲・イギリス組曲・無伴奏チェロ組曲)など、重要な器楽曲が量産された時期にあたっています。

無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータはたった1台のヴァイオリンのために書かれたものありながら、和声的にも対位法にもきわめて高度な音楽表現を可能にしており、ヴァイオリンという楽器の性能や表現の可能性を極限まで追求した作品になっています。

シャコンヌはパルティータ第2番の5曲目として書かれたものですが、この曲集の中核をなす傑作です。短い低音を繰り返しながら、その上に変奏を築き上げていく一種の変奏曲なっています。またヨアヒム・ガラミアン・シェリングなど、名ヴァイオリニストによる楽譜の出版がありますが、特にシェリング版によってアティキュレーション、フレージング、和音の弾き方(上から奏くか下から奏くか)などの解決がなされています。

本日は弦楽合奏『ビッテンビンダー版』を演奏します。ヴァイオリン1本では困難な難曲を、各パートにて割り当て演奏を可能にしていますが、原曲とはまた違った魅力をお楽しみください。(H・F)

ハイドン 交響曲第44番 ホ短調 「悲しみ」

2曲目にも登場したオーストリア生まれのフランツ・ヨーゼフ・ハイドンは、交響曲・弦楽四重奏曲・オラトリオの分野で特に有名で、『交響曲の父』と呼ばれ、77年の生涯で多種多様な曲を1000曲程、作曲しています。(ハイドンには、ミヒャエルという名の弟がいて、彼も700曲以上作曲している大作曲家なのです!)交響曲はどちらかといえば楽しげな長調の曲が多い中、この44番は『悲しみ』という副題のついた珍しい短調の曲です。このホ短調という調は、ハイドンの107曲の交響曲の中でただ1曲のみ、モーツァルトもベートーベンもこの調性では交響曲を作っておらず、当時は大変珍しい調性でした。

ハイドンはこの作品をとても気に入っていたようで、自分の葬儀の時には第3楽章を演奏してほしいと語ったと言われており、また1809年に行われたハイドンの追悼演奏会ではこの楽章が演奏されたそうです。副題の『悲しみ』は、このエピソードに由来すると言われています。

 

第1楽章: Allegro con brio

曲の冒頭はユニゾンで暗く重々しく始まり、第1ヴァイオリンが暗いながらも美しい旋律を奏でます。全体的に暗いのですが、力強くどこかせつないメロディの掛け合いや次々と湧き出してくるような旋律で、曲は情熱的にぐんぐん進みます。最後の方に出てくる、一瞬音楽の動きが止まってしまう箇所がとても印象的です。

第2楽章: Menuetto. Allegretto Canone in diapason

メヌエットと言えば可愛らしい舞曲というイメージがありますが、この楽章はとても悲しげ。でも中間部(トリオ)での霧が晴れ渡ったような美しいメロディは、まるで天国で奏でられる曲のようです。カノン(追いかけっこ)形式で描かれています。

第3楽章: Adagio

弱音器をつけたヴァイオリンの美しいメロディが、うねりを持ったさざ波のように次々と登場して、透明感のある悲しみが表現されています。色々苦しかった(かもしれない?)けれど人生楽しかった、生きてきてよかったね・・・と語りかけてくれるような音楽に、ハイドンもきっと癒されたことでしょう。

第4楽章: Presto

弦楽器各パートのユニゾンで急き立てられるように始まります。各パートが次々と掛け合うスピード感のあるメロディの洪水で、1楽章以上に情熱的な表現にあふれています。

 

次第に沈静化していくように思われる音楽ですが・・・それを切り裂いて一気に最後まで走り抜けます。(R・M)


チェロ独奏 西本慶子(にしもとけいこ)

5歳よりチェロをはじめる。同時に桐朋学園大学附属子供のための

音楽教室に入る。

第2回クオリア音楽コンクール第3位

第5回横浜国際コンクール第3位

第19回和歌山音楽コンクール最上位

第10回日本演奏家コンクール最上位、併せて協会賞受賞。

第32回草津音楽アカデミーにてタマーシュ・ヴァルガ氏の

マスタークラス公開レッスンを受講。

第22回京都フランスアカデミーにてクリスチャン・イヴァルディ氏の

室内楽クラス公開レッスンを受講。

県立西宮高校音楽科を卒業、現在京都市立芸術大学音楽学部に在籍。

これまでにチェロを北口晋之、林裕、池村佳子、上村昇の各氏に師事。

指揮 南出信一

16才よりコントラバスを始め、1972年 京都市立芸術大学音楽学部に入学。入学と同時にテレマン室内管弦楽団に入団、在学中にハンガリーのコダーイ弦楽四重奏団とシューベルトの『鱒』を共演し好評を得る。

1993年、左手人指指故障により同楽団を退団。翌年フリーの演奏家として復帰、現在に至る。

コントラバスを西出 昌弘氏、ゲ-リ-・カ-氏、室内楽を故、黒沼 俊夫氏、ゲルハルト・ボッセ氏、指揮を堤 俊作氏に師事する。

現在、神戸女学院大学、京都市立音楽高校、兵庫県立西宮高校の各音楽科講師、和田山少年少女オーケストラ指揮者、ライツ室内管弦楽団を主催。

都島ストリングス第5回~第9回の定期演奏会指揮者