【第9回定期演奏会】

モーツァルト:交響曲第27番 ト長調 K.199

1773年、交響曲発祥の地・イタリアへの3回目の旅行から帰ってきた17歳のモーツァルトが、ザルツブルグの宮楽団のコンサートマスターという宮仕えをしながら作曲したものです。その後すぐにウィーンへ旅立ってしまうのですが、これら旅行の合間を縫って、3年間で作曲した17の交響曲は『ザルツブルグ交響曲』と呼ばれ、早熟な天才少年がシンフォニーの領域で大きく飛躍したのがこの時代と言われています。

 全3楽章構成(第1楽章:Allegro 第2楽章:Andantino grazioso 第3楽章:Presto)

1楽章の清々しくも華やかなアレグロは、イタリアオペラの序曲のようですが、2楽章、3楽章と進むうちにどんどんウィーン風に洗練されたスタイルになっていきます。 このザルツブルグ時代の交響曲は比較的小規模なものが多く、モーツァルトらしい、軽やかな浮遊感と艶のある透明感があって、後期の三大交響曲(39番・40番・41番『ジュピター』)のような偉大であるとかそういうものとは少し違うのだけれど、気構えずにするりと心に馴染んでくれて、聴くたびに愛着が増していくように思います。

私達、和風の弦楽器奏者にとっては、その『透明感』を醸し出す弾き方が大変難しく、いつも先生から、「べたべた弾かない!“こぶし”のように音の最後を大きくしない!」と叫ばれていますが・・・今日はうまくモーツァルトらしさが表現できるでしょうか?お楽しみいただければとても嬉しいです。 (R,M) 

モーツァルト:クラリネット協奏曲 イ長調 K.622 クラリネット独奏:松尾依子

モーツァルトの時代には、クラリネットはまだ新しく出現したばかりの楽器でした。モーツァルトがクラリネットの存在を知ったのは13歳の時のイタリア旅行の時で、父宛ての手紙に「ザルツブルクにもクラリネットがあったなら…」と書いています。この曲K.622の自筆譜は消失していますが、モーツァルト自身による作品目録への書き込みから1791年秋、モーツァルトの親友でありウィーン宮廷楽団に仕えていた、当時並ぶ者のないクラリネットの名手アントン・シュタドラーのために作曲されたことがわかっています。

ほぼ均一な音色を持つオーボエに対して、クラリネットは、低音・中音・そして高音、それぞれの音域で、音色が変わり、表現に幅と奥行きを持たせることができる点が魅力です。シュタドラーはクラリネットの低音を好み、同じ宮廷楽団でクラリネットを吹いている弟に高音を吹かせ、自分は首席奏者でありながら、低音を吹いていました。彼は、通常のクラリネットより4音低い音まで出る、バセットクラリネットを愛用し、モーツァルトはこの楽器のためにクラリネット五重奏K.581と本日の協奏曲K.622の2曲を作曲したのです。

 全3楽章構成(第1楽章:Allegro 第2楽章:Adagio 第3楽章:Rondo. Allegro)

K.622は通常のクラリネットでは吹けない低音部を1オクターブ上げ、それに伴う前後のつながり方を修正した、数種の復元版があります。第1楽章について言えば、曲の冒頭からクラリネットが出る版と数十小節のオーケストラの前奏の後でクラリネットが歌い出す版等ありますが、本日の演奏は後者版の方です。

協奏曲は独奏楽器が主役でオーケストラが伴奏するのが一般的ですが、この曲では時々オーケストラが主旋律を、そして独奏クラリネットが伴奏をするというのが面白いところです。リズミカルな第1楽章と第3楽章の間に挟まれた第2楽章アダージョの美しさは格別です。天上の音楽とも言えましょう。 

最後にモーツァルトの名前について、 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。ご存知の方も多いかと思いますが、ヴォルフガングは母親の故郷の湖の呼び名にもなっている聖人の名前です。直訳すると「狼の道」です。アマデウスはラテン語で「神の愛でし子」と言う意味です。 (M.F)  

アンコールにシュライナー作曲「インマークライナー」

タイトルのインマークライナーというのは「だんだん小さく」という意味ですが、タイトル通りクラリネットがどんどん小さくなっていく!管を抜いていき、最後にはマウスピースだけで演奏となります。

チャイコフスキー:弦楽セレナーデ ハ長調 Op.48

1880年40歳の時、作曲された弦楽5部の合奏曲です。ロシアの民族的旋律をふんだんに盛り込みつつ、ドイツ古典やロマン派音楽の影響を強く受け、両者の壮大な融合に成功した曲と言えるでしょう。1882年の初演以降、ヨーロッパ各地で好評のうちに演奏され、現在も広く愛されています。

チャイコフスキー自身はモーツァルトを崇め、「この曲はモーツァルトに対する私の讃歌です。」と述べていますが、このセレナーデは、有名な“アイネクライネ・・”のような、恋人にささげるセレナーデとは違い、組曲として作られています。本日の演目の他の作品が全てモーツァルトであることを、チャイコフスキーも喜んでいるでしょう!

 

第1楽章 Pezzo in Forma di sonatina; Andante non troppo - Allegro Moderato

序奏に荘重な抒情的な美しい旋律が36小節まで続きます。印象的なこの旋律は1楽章の終わりに再現され、また、この長大な曲の4楽章の最後にも現れます。演奏者は、その終わりに来る重厚で甘美な旋律をずっと心の中で待って、

他楽章を弾き続けているような気がします。他のメロディーが時に大衆的過ぎ、冗長、退屈なのも(?)、その最後の締めくくりをより感動的にするための構成に違いありません。

第2楽章 Waltz; Moderato (Tempo di valse)

遠くから何やら楽しげな音楽が聞こえてきます。21小節からは、その音の聞こえていたホールの扉が開き、一気に舞踏会の中へ入っていきます。そこはもう、ヨハンシュトラウスの世界です。楽しげな舞踏は続き、華やかな気配を残しながら、夢のように終わります。

第3楽章 Elegie; Larghetto elegiaco

スラブ的な憂いに満ちた静かな旋律で始まります。21小節から、ビオラの3連音符のピチカートの上をヴァイオリンのメロディーがカンタービレで流れます。やがて、もとの哀歌が聞こえ、最後は倍音で終わります。弦楽合奏の曲の中で最も美しい名曲と言う人も多い楽章です。

第4楽章 Finale (Tema russo); Andante - Allegro con spirito

3楽章の終わりと同じコードで、ロシア風の民謡の序奏が始まります。その後、速いテンポの第1主題、チェロソロの第2主題が続き、この2つの主題が変奏され、また絡み合い、盛り上がって行きます。そして、1楽章冒頭のあの旋律が再びあらわれ、全曲の終末が暗示されます。ここからがこの曲全曲のコーダとなり、堂々と終わりを歌いあげます。

 

間で少し眠りかけていた方も、ここへ来て、「ああ、やっぱり、チャイコフスキーはいいなあ!」と目覚め、最後にしみじみと深い世界に浸っていただけたら幸いです。(Y,M)                          

アンコール 葉加瀬太郎の情熱大陸

 


Clarinet 松尾依子(まつおよりこ)

兵庫県出身。大阪音楽大学音楽学部器楽学科卒業。卒業時に優秀賞を受賞し、各種新人演奏会に出演。在学中、山下一史氏指揮、ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団とウェーバーのクラリネット協奏曲第2番を協演。また奨学生として渡仏し、ニース国際音楽アカデミーにてギィ・ドゥプリュ氏のクラスを修了。

第19回欧日音楽講座にて、ミシェル・アリニョン氏よりビュッフェ・クランポン第一席奨励賞を受賞。

アジア・ユースオーケストラ2006の日本選抜メンバーとして、各国でのオーケストラ公演に出演。第20回摂津音楽祭リトルカメリアコンクール第1位、併せて大阪府知事賞を受賞し、日本センチュリー交響楽団とモーツァルトのクラリネット協奏曲を協演。

第18回日本木管コンクールクラリネット部門第3位・併せて聴衆賞受賞。

第7回日本クラリネットコンクール、第17回・第20回宝塚ベガ音楽コンクール木管部門各入賞。

クラリネットを本田耕一氏に師事。

現在、ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団クラリネット奏者。

大阪音楽大学演奏員。奈良県立高円高校音楽科クラリネット講師。

指揮 南出信一

16才よりコントラバスを始め、1972年 京都市立芸術大学音楽学部に入学。入学と同時にテレマン室内管弦楽団に入団、在学中にハンガリーのコダーイ弦楽四重奏団とシューベルトの『鱒』を共演し好評を得る。

1993年、左手人指指故障により同楽団を退団。翌年フリーの演奏家として復帰、現在に至る。

コントラバスを西出 昌弘氏、ゲ-リ-・カ-氏、室内楽を故、黒沼 俊夫氏、ゲルハルト・ボッセ氏、指揮を堤 俊作氏に師事する。

現在、神戸女学院大学、京都市立音楽高校、兵庫県立西宮高校の各音楽科講師、和田山少年少女オーケストラ指揮者、ライツ室内管弦楽団を主催。

都島ストリングス第5回~第9回の定期演奏会指揮者